ばくだん凛ちゃん
「うあーん!」

凛は廊下で号泣してハルのいる部屋に向かって手を伸ばした。

「ごめん、凛。
お母さんにまた会いに来るから」

そうなだめてみるけれど、凛は仰け反って泣いている。

「凛ちゃん〜、元気だねえ」

後ろから聞き慣れた声が聞こえる。

「速人、仕事は?」

振り返るとチャラチャラした小児科医の速人が手を振っている。

「今は休憩です。
先輩が来てるって聞いたから飛んできました」

速人はこういう事がすんなり出来るタイプ。
だから上から気に入られる事が多い。

「凛ちゃん、大きくなりましたね」

抱っこしたそうにするので仰け反って泣いている凛を渡す。

こんなに泣いているのに抱っこしたがるって…まあ速人らしい。

子供の相手をするのは昔から上手かったからな。

「凛ちゃん、こんなお父さんと一緒にいないといけないなんて、可哀想に。
お母さんと一緒にいたいよね〜」

「…何気に僕を侮辱しているよね」

速人は笑いながら凛を抱き上げる。

凛は急に視線が上になって、泣き止んだ。
速人の長身が高い高いをしたら、尚更高い位置になるよね。

僕達を見下げるような位置になり、凛は少しずつ笑みを浮かべている。

「あ〜!」

何やら楽しそうに声を上げだした。

「またお父さんと一緒にお母さんに会いにおいで。
その時、またオジサンが高い高いしてあげるからね」

凛は嬉しそうにキャーっと声を上げた。

「凛ちゃん〜、もう少し大きくなったらオジサンがあちこち連れていってあげるよ」

…お前も早く結婚して、子供が出来たらきっと良いお父さんになるだろう。
勿体ない。

「はい、先輩」

すっかり機嫌が良くなった凛を手渡された。

白衣にある胸ポケットのPHSが揺れている。
速人はそれを手に取ると

「しばらく大変だと思いますが、何とか乗りきってくださいね」

そう言ってPHSに出ると足早に廊下を歩いていった。

「凛、またみんなに会いに来ようね」

凛は速人が立ち去った方向を見ながら足をバタバタさせていたが、やがて僕を見上げると

「う〜?」

最高の笑顔を見せてくれた。
僕も微笑むと凛を抱っこしてゆっくりと廊下を歩き始めた。
< 119 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop