ばくだん凛ちゃん
600の決勝レースが終わり、JSB1000のレースが始まる。
これは祥太郎君やむっちゃんの弟、知樹君が出る。
17歳で1000のマシンを操るのは中々大変だと思うけど、敢えてしているのだろう。
筋トレも相当していないと走行に耐えられない。
一方、祥太郎君はもうシリーズチャンピオンをほぼ手中にしている。
今や日本では敵なし。
「先生」
ピットに戻るとどうしても手伝いたくなると言うので僕とむっちゃんはグランドスタンドでレースを見ていた。
凛も初めて見るレースにキョロキョロしていたがご機嫌が悪くなるということはなかった。
「もし、もしですよ」
むっちゃんは笑ってごまかそうとしていたが声が少し、落ち着きがない。
僕に聞いては悪い、と思う事を言おうとしているのか。
「私の本当のお父さんが今、生きていたらどうなっていたと思います?」
…難しいことを聞くね、むっちゃん。
「時々思うのです。
本当のお父さんが生きていたら…ママの人生はもっと幸せだっただろうし。
私も違った人生だっただろうし」
拓海が生きていたら、か。
「多分、むっちゃんは今、結婚していないし妊娠もしていないはずだよ」
あの拓海が許すはずがないと思う、自分より1歳年上の光さんとの結婚。
しかも、同業。
「あのまま拓海が生きていたら、世界に挑戦するのは間違いないって言われていたんだ。
それが成功すれば、また全然違った人生だっただろうね」
僕は視線を凛に落とした。
心地良さそうに凛は僕の膝の上で眠っている。
マフラーから大きい音が聞こえるのに上手い人のバイク音は子守唄にでもなるのだろうか。
「…そうですね」
むっちゃんはどことなく嬉しそうに言ってコース上を見つめた。
サイティングラップが終わり、いよいよレースが始まる。
急に凛が目を開けた。
「うー…」
僕は凛を抱っこして膝の上の座らせる。
「凛、良いタイミングで起きたね」
場内がスタート前独特の高揚した雰囲気に包まれ、凛はバタバタと音を立てて舞うたくさんのフラッグを不思議そうに見つめている。
やがてシグナルがブルーに変わり、一斉にマシンたちが走り出す。
大歓声が上がった。
最初の2周目まではかなりの興奮だが、やがて観客も落ち着いてくる。
「僕もね、時々拓海が生きてくれていたらなって思う。
でも、こればかりはどうしようもないからね」
人の生死だけはどうしようもない。
いくら医学が発達しても、いずれは皆、いなくなる。
でも、その分、新しい命が生まれる。
「むっちゃんが楽しく、幸せに暮らしてくれたらそれで拓海は幸せだと思ってくれるだろうね。
少なくとも、僕はそう思っている」
拓海とよく似た目をしているむっちゃんは目を細めて笑って頷く。
そう、それだけで充分、幸せだよ。
これは祥太郎君やむっちゃんの弟、知樹君が出る。
17歳で1000のマシンを操るのは中々大変だと思うけど、敢えてしているのだろう。
筋トレも相当していないと走行に耐えられない。
一方、祥太郎君はもうシリーズチャンピオンをほぼ手中にしている。
今や日本では敵なし。
「先生」
ピットに戻るとどうしても手伝いたくなると言うので僕とむっちゃんはグランドスタンドでレースを見ていた。
凛も初めて見るレースにキョロキョロしていたがご機嫌が悪くなるということはなかった。
「もし、もしですよ」
むっちゃんは笑ってごまかそうとしていたが声が少し、落ち着きがない。
僕に聞いては悪い、と思う事を言おうとしているのか。
「私の本当のお父さんが今、生きていたらどうなっていたと思います?」
…難しいことを聞くね、むっちゃん。
「時々思うのです。
本当のお父さんが生きていたら…ママの人生はもっと幸せだっただろうし。
私も違った人生だっただろうし」
拓海が生きていたら、か。
「多分、むっちゃんは今、結婚していないし妊娠もしていないはずだよ」
あの拓海が許すはずがないと思う、自分より1歳年上の光さんとの結婚。
しかも、同業。
「あのまま拓海が生きていたら、世界に挑戦するのは間違いないって言われていたんだ。
それが成功すれば、また全然違った人生だっただろうね」
僕は視線を凛に落とした。
心地良さそうに凛は僕の膝の上で眠っている。
マフラーから大きい音が聞こえるのに上手い人のバイク音は子守唄にでもなるのだろうか。
「…そうですね」
むっちゃんはどことなく嬉しそうに言ってコース上を見つめた。
サイティングラップが終わり、いよいよレースが始まる。
急に凛が目を開けた。
「うー…」
僕は凛を抱っこして膝の上の座らせる。
「凛、良いタイミングで起きたね」
場内がスタート前独特の高揚した雰囲気に包まれ、凛はバタバタと音を立てて舞うたくさんのフラッグを不思議そうに見つめている。
やがてシグナルがブルーに変わり、一斉にマシンたちが走り出す。
大歓声が上がった。
最初の2周目まではかなりの興奮だが、やがて観客も落ち着いてくる。
「僕もね、時々拓海が生きてくれていたらなって思う。
でも、こればかりはどうしようもないからね」
人の生死だけはどうしようもない。
いくら医学が発達しても、いずれは皆、いなくなる。
でも、その分、新しい命が生まれる。
「むっちゃんが楽しく、幸せに暮らしてくれたらそれで拓海は幸せだと思ってくれるだろうね。
少なくとも、僕はそう思っている」
拓海とよく似た目をしているむっちゃんは目を細めて笑って頷く。
そう、それだけで充分、幸せだよ。