ばくだん凛ちゃん

☆ 透 ☆

ハルが帰ってきて1ヶ月ちょっとが経った。
体調もまずまず落ち着いていてホッとひと安心だ。

季節はもう冬。
凛の誕生日を今日、迎えた。
また今日は…
拓海の命日でもある。

「お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした。お気をつけてお帰りください」

診察が終了し、スタッフが帰りはじめる。
僕は必ず声掛けをしてスタッフを送り出す。

相変わらず、僕の勤務は縮小しているがそれでもどうにか回っている。
小児科のスタッフも内科よりは早く帰られると言って喜んでいたり。
このまま、この勤務体系で行くのも一つの手かもしれない。



昨日が日曜だったので昨日、凛のお祝いを僕の両親、兄さん夫妻、皆でした。

けれど。

今日は家族だけでお祝いをする。

少し、胸が踊る。
久しぶりに感じるワクワクする感じ。
これって子供が産まれないとわからなかった事だな。

帰宅途中、凛はまだ食べられないのでハルと二人で食べる小さなホールケーキを買う。
今日はクリスマスなのでお店の商品はクリスマスケーキがほとんどだけど。
それと凛にはクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを。

ふと、ガラス越しに映った自分の姿を見て思う。

いつの間にか、夫になり、父になったんだな、と。
所帯染みているというか何というか。

でも、それでいい。
一人で毎日淡々と患者を診ていたあの日々の繰り返しよりも。
今は十分、幸せ。

それを運んできてくれたのは凛。

性格的に確かにやり辛いところはあるけれど。
それでも愛しい。



「ただいま」

家のドアを開けるとちょうど玄関マットの上に凛を抱っこしたハルが微笑んでいた。
凛も大人しく抱っこされている。

「おかえり」

そう言って微笑んだハル。
車の音を聞いて、きっと待っていたのだろう。

一瞬、胸の奥に鈍い痛みを感じる。
ずっと、こういう瞬間に憧れていたのかもしれない。
少し視野が歪む。

すっと視線を落とし、心を落ち着けてから真っ直ぐ前を向いた。

「凛、お誕生日おめでとう」

凛に包みを2つ見せると興味を示して手を伸ばした。

「さ、向こうへ行こう」

僕達はリビングへと歩き始めた。
< 139 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop