ばくだん凛ちゃん
午後10時過ぎ。
ハルちゃんがお風呂に入るまで僕は凛ちゃんの面倒を見た。
家に帰ったら、即、寝てしまうかも。
桃ちゃん、ごめんね。

それにしても。
僕が気懸りなのはいまだにハルちゃんと透が本音をぶつけ合っていない、という事だ。
ハルちゃん、僕には紺野の小児科医達の問題点をぶつけてきた事があったけど、透本人に言ったことはないんだろうな。
言えば、きっと透は手を抜く。
いや。
…その言い方は少しマズいか。
透は若いけれど部長という立場だ。
僕と同じ。
なのに、仕事は若い者以上に回ってくる。
確かに透がやった方が手際が良いし、早い。
黒谷先生が言うには症例を見た瞬間に治療法などの結果を出している。
基本的に迷いがないらしい。
まあ、難しい症例は悩むことがあっても、自分の中でほぼ答えを持っている、と言っていた。
だから救急外来で透が重宝される。

だが。
ハルちゃんが前から思っている『透ばかりが責任を負わされて、周りは逃げる』という事を透に言えば。
透は今後、当番じゃない日は病院からの電話は取らないだろう。
今日も…休日。
当番じゃないのに、当番医が電話に出なかったのだ。
透もそいつらにガツンと言ってやればいいのに。
自分の方が立場が上なのにね。

…でも、困っている人がいるのに助けないわけにはいかない。
苦しんでいる患者。
それを目の前で見ている家族。
その場にいるスタッフ。

【自分が行けばそれだけで救われる人が何人もいる】

思い上がりのような言葉だが、透はその気持ちだけで動いているんだ。
ハルちゃんはそれをずっと前から見抜いている。
何度、出ていく透の手を引っ張ろうとしたか。

いつか、この二人。
本音をぶつけ合う時が来るだろうな。
しかも近い将来。

その時、離婚とかにならないでくれよ、頼むから。



そんな事を考えながら、車で家に帰った。
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