ばくだん凛ちゃん
「ハルさん」

小児科外来の診察室を出ると意外な人がそこにいた。

「お義父さん」

秘書の方も後ろにいた。

「もうすぐ仕事が終わるから良かったら車で一緒に帰ろうか」

良かった!
これから帰宅ラッシュの時間帯になるのでバスの中も人でいっぱいになりそうだし。

「ありがとうございます!」

私は頭を下げる。

「では少し待ってくれる?
17時15分に終わるから」

そう言われて秘書の方に連れて来られたのは院長室。

「授乳中でいらっしゃいますよね?
コーヒーでも、と思いましたがお茶で宜しいですか?」

「ありがとうございます」

お義父さんの秘書の方、凄く若そうに見えたけど気遣いも中々。

「抱っこ、させて頂いても宜しいですか?」

今度はそこそこの年齢の方が私に声を掛けた。
…お義父さん、何人秘書がいるんだろう。

「どうぞ」

私は凛をその方に渡した。

「うわあ、まだまだ小さいねえ」

「透先生に何となく似てますね」

若い秘書が言うと

「そりゃ先生の子だもの、当然よ」

秘書達はケラケラ笑った。

「赤ちゃんとの生活はどうですか?」

「中々大変ですね…」

私は苦笑いをした。
もう少し硬いイメージがあったのに、案外気さくな人が多かった。

ドアをノックする音が聞こえ、開いたと思ったら

「遅くなりましたー!」

また秘書が入ってきた。

「院長先生に頼まれて買いに行ってたのですが、これを皆で食べておきなさいって…」

袋から出したものは病院近くの有名な洋菓子屋さんのケーキ。

「院長先生も息子の嫁様とお孫さんには弱いわよねー!
奥様も向こうの部屋にどうぞ。
秘書の控え室だからこの部屋に比べたら質素ですけど」

お義父さん。
私が暇をもて余すと思って色々してくださったんだ…。

秘書の方に勧められるがまま、控え室に。

凛は赤ちゃん用の移動式ベッドに寝かされた。
疲れたのか今はスヤスヤ眠っている。

「朝から張り切ってましたよ、院長」

そこそこの年齢の方が美味しそうにケーキを口に運びながら言った。

「そんなにですか?」

彼女は頷いて

「今日は絶対に一緒に帰ると言って、小児科に診察が終わりそうになったら絶対に連絡しろって命令してましたよ」

そんな事まで…。

「大切なんですよ。
透先生とはつい最近まで凄い対立をしていましたからね。
それを上手く仲直りさせたのは奥様ですよ」

私には全くそんな感覚はないけれど。

控え室のドアがノックされた。

「お楽しみのところ、失礼ー」

と入ってきたのはお義父さん。

「先生、頂いております」

「どうぞ!それよりも凛は?」

…お義父さん。
皆さんの前で孫可愛がりは駄目ですよ!

院長の名が廃れる。
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