ばくだん凛ちゃん
そう思ったけれど、寝ている凛を見たお義父さんは満面の笑みを浮かべて凛の傍に行き、頬を撫でた。

「お孫さんと息子さんのお嫁さんには頭が上がりませんね、院長」

一番年上っぽい方がクスクス笑いながら言うと

「上がりませんね。
何をしても文句言えません」

その場に笑いが起こる。

「自分が在職中に息子の奥さんと孫が病院に来るなんて、思いもせず。
一生、そんな事もないと思っていたので感慨深いですよ」

お義父さんが目を覚ました凛を丁寧に抱っこする。

「…あの透が結婚するなんてね。
もう、一生ないと思っていたから。
あんな面倒な息子と結婚してくれたハルさんには感謝します」

お義父さんは私を見て微笑んだ。

「…何もお役には立てていませんけれど」

逆に迷惑掛けっぱなしだ。

「いてくれるだけでいいんです。
出来ない事は助けますよ」

それを聞いていた秘書の方が

「先生、3月末で退職されたらお孫さんの子守りをされるのですか?」

お義父さんは首を横に振ると

「本当はそうしようと思って退職の意志を理事会に伝えたのに。
非常勤で週3で来てください、って。
簡単には辞めさせてくれないなあ…」

抱っこしている凛に向かって

「お祖父ちゃん、凛と一緒に遊びたいんだけどゴメンね」

と言った事が秘書の方々に大ウケだった。



17時15分ピッタリにお義父さんは帰る準備をして、私も秘書の方々に挨拶をすると

「またいつでもお越しください。
院長の普段見られない顔が見られて楽しいです」

…皆さん、そういう部分を楽しまれているんだ。

「またお邪魔します」

と私も笑顔で返した。



院長室を出て、お義父さんと院内を歩いていると、あらゆる人が頭を下げてくる。
それに一つ一つ、丁寧に挨拶をする姿。
何となく至お兄さんや透と重なった。

いつかは透もこんな風になるのかしら。



地下駐車場に来ると自分の家の車も発見して何だか不思議な気持ちになる。

「はい、どうぞ」

久々にお義父さんの車に乗る。

「あ…」

思わず声を上げた。
チャイルドシートがちゃんと設置されていた。

「凛が生まれる前に透と相談して買っておいたんだ」

嬉しそうに話すお義父さん。

「ありがとうございます」

「いえいえ。
透も多忙だからね。
これからは私が少し時間に余裕が出来るし、何か役に立つこともあるだろう」

本当に有り難い。

私は深々と頭を下げた。
< 35 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop