ばくだん凛ちゃん

○ ハル ○

「お兄さん、大丈夫かなあ…」

車が見えなくなって思わず呟く。
本当はお食い初め、断りに来たのだと思う。
精神的に参っているのが手に取るようにわかる。

「…まあハルが兄さんを助けてくれたら大丈夫かな」

透は微笑む。
一番、この人が気楽に考えている。
私も不安なんだからね!

「…私が手伝った所でお兄さんが楽になるとは思わないけど」

私は階段を上がり始めた。
透がその後を歩いてくる。

「ハルは自信ないの?」

私の眉間に皺が寄る。
貴方が私に手伝えって言ったんだよ?

「透、自分の発言に少しは責任を持ちなさい」

私が急に振り返ったから透は驚いて凛を落としそうになる。

「ハル、心臓に悪いよ、それ」

目を丸くして動揺を隠せない透。
珍しい姿を見たかもしれない。

「透が私の気分転換に、って言ったんでしょ?
それで手伝うだけ。
自信も何も、あるわけないじゃない!!」

その瞬間、透は私の隣に来ていた。
凛を片手に抱いて、私の鎖骨辺りに腕を当てた。
階段横の壁と透の腕に挟まれた感じ。

「…今まで経理していたんでしょ?
自分のしてきた事くらい、自信持ちなよ」

透の声がいつもより一段、いや二段低くなった。

「手伝うと言っても医療事務はそれなりの事になるよ。
もちろん、兄さんは絶対にハルの負担になるようなことはしないけど。
僕が唆したとはいえ、ハルは自分の意志で引き受けたんだからね。
その辺りはプロとして、責任持ってしろよ」

透の鋭い目が私を捉えた。
…こんな事、今までなかった。

「ハルなら出来る。
僕はそう確信している。
だから兄さんの手伝いが出来ると思ったんだ。
もちろん、僕も協力できるところはする。
…いずれは」

何か言いかけて透は止めた。

「いや、今はまだその段階じゃない」

透は腕を放して、先に歩き始める。



初めてあんな透を見て私はドキドキしている。
少し怖かったけれど。
一瞬だけ、透の仕事に対する姿勢を見ることが出来た気がする。

我が夫ながら…。
カッコいい、なんて思ってしまって。
うわぁ、私、どうしよう。
顔、真っ赤かもしれない。



「ハル、早くおいでよ」

透は2階の玄関ドアを開けて待っている。
慌てて階段を上がる途中、ふと思った。
透、さっき何か言いかけて止めたけど。
何か言いたかったことがあったのかな。



ま、いっか。
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