ばくだん凛ちゃん
○ 透 ○
4月。
僕は2ヵ所の病院を掛け持ちする事になった。
一つは今まで通り紺野総合病院。
もう一つは兄さんが院長に就任した生駒医院。
桃子さんの実家。
兄さんが継承した訳だけど、スタッフがねえ…。
問題有りな人が多くて。
優秀な人は兄さんの手腕を見ないうちに辞めてしまった。
まあ、トップが代わると色々あるよね。
ハルも子育てと家事だけだとストレスが溜まると思ったので、兄さんの手伝いを提案してみた。
ただ、少しずつ凛を可愛いと思えるようになってきているから保育園などに預けてまでは働きたくないと思う。
だからハルが兄さんに条件を突き付けるのは予想出来たし、兄さんもそれを快諾するのはわかっていた。
いくら今は電子化とはいえ、最後のチェックは院長がしないとね。
ただ、さすがに兄さん一人で生駒医院の規模を抑えるのは難しい。
ハルが未経験でも今までの仕事ぶりを前の会社の上司から聞くと、2ヶ月もあればある程度のラインまで持っていけるだろう。
また、今いるスタッフを何とか押さえて欲しいという願いもある。
ハルが本気を出せば、多分、今のスタッフよりも仕事が早い。
桃子さんのお父さんは失礼ながら、スタッフに自由にさせすぎていた。
どこかで流れを止めないと、病院が傾きかねない。
ハルが今は公には入らないが、勉強するには兄さんの望む雇い方で十分。
僕も将来を見据えて勉強するからお互い、生駒医院の接し方は丁度良い。
…しかし、何で非常勤の僕が生駒医院の経営を考えないといけないのかな。
まあ兄さんが貧乏クジを引かされたのは間違いない。
言い方は悪いけれど父さんが桃子さんのお父さんにまんまと嵌められたんだね。
兄さんも、桃子さんも可哀想だ。
だから少しだけ、力になる。
影からこそっとね。
「改めまして、今日から夕診のみお世話になります、小児科、高石 透です」
4月最初の生駒医院での勤務。
夕診の少し前に建物3階にあるスタッフルームに医師も看護師も事務方も集められた。
以前にも平日に有給を取って、挨拶に来たことがあるが改めて。
兄さんから要注意人物は前もって教えられている。
チラッと見てみたが、あまり警戒はされていないようだ。
その方が良い。
「紺野総合と掛け持ちになりますので緊急時は休診になる可能性がありますが、その辺りはご了承願います」
一応、紺野は常勤だからね。
そちらが優先だ。
初日は今まで夕診をしていなかった事もあり、それほど忙しくはなかった。
その日は紺野の当直が入っているからまたとんぼ返り。
「透先輩、いつか死にますよ」
そんな物騒な言葉を投げ掛けるのは神宮寺 速人。
もし、万が一僕が紺野を辞めたら。
ここの小児科を引っ張るのは速人だろうな。
「まあいい気分転換だよ」
そう思わないとやっていけない。
「奥さんや凛ちゃんは大丈夫ですか?
今まで以上に大変だと思いますが」
速人に言われなくても。
わかってる。
「うん、それもあるからね。
ハルを生駒医院の事務方に専従で入れる予定なんだ、将来的に」
「はい?」
速人は面食らっている。
「奥さんに生駒医院の事務方を任せるんですか?」
その問いに僕は返事しなかった。
「それって今いるスタッフにすれば妬みとかに繋がりますよ?」
「だから徐々に地固めするんだ。
ハルには皆に知られる前にコッソリ勉強してもらう」
兄さんを助ける為にも、改革が必要だ。
「…透先輩。
怖いこと考えてません?
俺の考えが正しければ、一つ間違えたら病院の経営が傾きますよ?」
思わず鼻で笑ってしまった。
「速人、あの病院はすでに末期だよ。
だから兄さんに全てを擦り付けたんだ。
そんな事をされて、身内としては気分が悪い」
「…怖いです、センパイ」
何とでも言えば良い。
僕は2ヵ所の病院を掛け持ちする事になった。
一つは今まで通り紺野総合病院。
もう一つは兄さんが院長に就任した生駒医院。
桃子さんの実家。
兄さんが継承した訳だけど、スタッフがねえ…。
問題有りな人が多くて。
優秀な人は兄さんの手腕を見ないうちに辞めてしまった。
まあ、トップが代わると色々あるよね。
ハルも子育てと家事だけだとストレスが溜まると思ったので、兄さんの手伝いを提案してみた。
ただ、少しずつ凛を可愛いと思えるようになってきているから保育園などに預けてまでは働きたくないと思う。
だからハルが兄さんに条件を突き付けるのは予想出来たし、兄さんもそれを快諾するのはわかっていた。
いくら今は電子化とはいえ、最後のチェックは院長がしないとね。
ただ、さすがに兄さん一人で生駒医院の規模を抑えるのは難しい。
ハルが未経験でも今までの仕事ぶりを前の会社の上司から聞くと、2ヶ月もあればある程度のラインまで持っていけるだろう。
また、今いるスタッフを何とか押さえて欲しいという願いもある。
ハルが本気を出せば、多分、今のスタッフよりも仕事が早い。
桃子さんのお父さんは失礼ながら、スタッフに自由にさせすぎていた。
どこかで流れを止めないと、病院が傾きかねない。
ハルが今は公には入らないが、勉強するには兄さんの望む雇い方で十分。
僕も将来を見据えて勉強するからお互い、生駒医院の接し方は丁度良い。
…しかし、何で非常勤の僕が生駒医院の経営を考えないといけないのかな。
まあ兄さんが貧乏クジを引かされたのは間違いない。
言い方は悪いけれど父さんが桃子さんのお父さんにまんまと嵌められたんだね。
兄さんも、桃子さんも可哀想だ。
だから少しだけ、力になる。
影からこそっとね。
「改めまして、今日から夕診のみお世話になります、小児科、高石 透です」
4月最初の生駒医院での勤務。
夕診の少し前に建物3階にあるスタッフルームに医師も看護師も事務方も集められた。
以前にも平日に有給を取って、挨拶に来たことがあるが改めて。
兄さんから要注意人物は前もって教えられている。
チラッと見てみたが、あまり警戒はされていないようだ。
その方が良い。
「紺野総合と掛け持ちになりますので緊急時は休診になる可能性がありますが、その辺りはご了承願います」
一応、紺野は常勤だからね。
そちらが優先だ。
初日は今まで夕診をしていなかった事もあり、それほど忙しくはなかった。
その日は紺野の当直が入っているからまたとんぼ返り。
「透先輩、いつか死にますよ」
そんな物騒な言葉を投げ掛けるのは神宮寺 速人。
もし、万が一僕が紺野を辞めたら。
ここの小児科を引っ張るのは速人だろうな。
「まあいい気分転換だよ」
そう思わないとやっていけない。
「奥さんや凛ちゃんは大丈夫ですか?
今まで以上に大変だと思いますが」
速人に言われなくても。
わかってる。
「うん、それもあるからね。
ハルを生駒医院の事務方に専従で入れる予定なんだ、将来的に」
「はい?」
速人は面食らっている。
「奥さんに生駒医院の事務方を任せるんですか?」
その問いに僕は返事しなかった。
「それって今いるスタッフにすれば妬みとかに繋がりますよ?」
「だから徐々に地固めするんだ。
ハルには皆に知られる前にコッソリ勉強してもらう」
兄さんを助ける為にも、改革が必要だ。
「…透先輩。
怖いこと考えてません?
俺の考えが正しければ、一つ間違えたら病院の経営が傾きますよ?」
思わず鼻で笑ってしまった。
「速人、あの病院はすでに末期だよ。
だから兄さんに全てを擦り付けたんだ。
そんな事をされて、身内としては気分が悪い」
「…怖いです、センパイ」
何とでも言えば良い。