ばくだん凛ちゃん
「凛ちゃん、おめでとう〜!」

穏やかに晴れた日曜日。
桃子さんの賑やかな声が玄関に響いた。

今日は凛のお食い初め。

「桃子さん、色々とありがとうございます」

桃子さんは両手に沢山の紙袋を持っていた。

「凛ちゃんの為にあちこちで手に入れてきました」

…こんなに服、いるのかなあ。

「今、着られるものから来年の今頃、いけそうなものも」

…気が早いね。
ハルは大喜びだけどね。
まあ桃子さんのセンスなら間違いないけれど。

兄さんは桃子さんの後ろにいたけれど、相当疲れている。
僕も夕診から入って兄さんとは毎日顔を合わせるが、仕事よりも人間関係に参っているみたいだった。

これも歯痒い。
僕も4月から生駒医院で常勤になっていたなら何とか出来たかもしれないけれど。



「凛ちゃん〜!」

そのうち、1階から父さんと母さんがやって来た。
いつでも会えるのに、二人は凛を見ると大興奮だ。

賑やかにお食い初めが始まり、宴会が始まった。

…宴会と言っても。
親戚はこれ以上、呼んでいない。
いや、絶対に呼ばない。

凛のお食い初めの儀式は滞りなく終わった。

母さんにご飯を食べる真似をされて、凛は何をされているのかわからない顔をしていたのが可愛らしい。

生後3ヶ月を迎えて、よく笑い、泣いているのを見ると堪らなく愛しい。
…けれど僕は中々一緒にいられない。
今、凛のこの姿は一瞬でしかないのに。



「…透?」

ハルは僕を覗き込んだ。
母さんから凛を受け取り、色々と考えていたらいつの間にか涙が溢れていた。

「えっ、どうしたの?」

桃子さんは目を丸くして僕を見ている。

「…うん、ゴメン。
色々と考えていたら何だか泣けてきた」

「透、何で泣いてるの?」

兄さんまで。

「色々と…。
いや、何でもない」

僕は首を横に振る。



子供が生まれて、僕はますます感情のコントロールが出来なくなっているのかな。



初めて。
自分が医師である事を後悔したかもしれない。
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