ばくだん凛ちゃん
「泣き虫先生兼お父さんですねえ」

兄さんはそう言って僕の手から凛をそっと取り上げた。

「きっと凛ちゃんが産まれて、お父さんはたくさんの事に気が付いたんだよ。
凛ちゃんがお父さんに色々と教えてあげているのかもしれないね」

兄さん…なんて事を。

「ちょっと、透さん、大丈夫?」

桃子さんの声がうるさい。

「透!!どうしたの?」

ハルもうるさい!僕の事は静かに放置してくれ。

「二人とも、これくらいで驚いてはいけない。
病院で何度この姿を僕は見ているか」

余計な事を言わないで、兄さん。

「透はね、自分が治療に当たっていた子供…特に頑張って治療した子が元気に退院していくと号泣しているんだよ。
人目も憚らずにね」

もう、いいって、兄さん。

「きっとね、透は。
凛ちゃんから強烈なメッセージを受け取ったのかもしれないね」



そう、凛からの強烈なメッセージ。
僕は、自分のこれからの人生、どこに重きを置くのか。
考えないといけない時期に来ている。

ただ。
僕も人間だから。
名誉とか欲とか、色々ある。
今の時間に追われる生活をしながらも最新の知識を取り入れ、治療をし論文も書いてそれなりに名前も有名になって。

大好きな妻と子供と一緒にいる時間なんてほとんどない。
仕事だからね、それが。

…そう割り切れるのも、もう限界なのかも。

どの道を選んでも医師は忙しい。
勤務医はほぼ休日なし、開業医も休日は休日診療所に行ったり、他の病院へ応援に入ったり。
結局は忙しいのには変わりない。
でも、一瞬でも家族と触れ合う時間が増えたら…
そちらを選ぶだろう。


さて、どうするのか。
僕の迷いはまだまだ続く。
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