ばくだん凛ちゃん
先生が私に対する訳のわからない文句を止めて、パーテーションを見つめる。

看護師さんは私に凛を抱っこするように言ってくれた。
すぐに抱っこすると凛は目にいっぱい涙を溜めながらも泣き止んだ。



「服部先生、診察中に申し訳ございません」

普段聞けない透の低音域の声が聞こえる。

「…何です?」

うわあ、上から目線な物言い。

「ちょっと、失礼します」

後ろの通路から透が現れた。

「失礼を承知で申し上げます。
診察に関係のない、個人的な意見を言うのは止めて頂けませんか?」

「…はい?」

「家で抱っこしてるとかしてないとか。
先生は実際に見られたのですか?
そんな事よりも体の成長具合や神経の発達を見て、それの評価をすべきだと思うのですが」

透は他の人に聞こえないくらいのボリュームで伝えている。
でも、言葉の端々に臨戦体勢を感じる。

「何言ってるの。
このお母さんがあまりにもボーッとしているからアドバイスしているだけです」

すみませんね、ボーッとして。

「家庭が心配だわ。
この子のお父さん、虐待でもしてるんじゃないかしら」

その瞬間、私の頭がプチプチキレ始めた。
言い返そうと口を開いた瞬間、透の口から強烈な一言。

「そうですね。
連日の当直、呼び出しの繰り返しで家にまともにいない父親の存在自体が凛にとっては虐待になるかもしれないですね」

満面の笑みを浮かべながら透は言ってるけど、目は笑っていなかった。

「先生がそう仰るならどうぞ、通報して頂いて結構です。
自分の子供をきちんと見ていない小児科医の父親なんて、親失格ですよね」

目の前の先生の顔色がみるみる青ざめる。

「僕が見る限り、凛はもうすぐ首もしっかりしてくるでしょうし、股関節が脱臼しているというのも見当たりません。
固いのは生まれつき、体が固いだけで、それも今後は柔らかくなってくると思います。
身体の成長も特に目立った異常もありません。
僕、何か見落としていますか、服部先生?」

どうしよう…泣きそうだわ、私。
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