ばくだん凛ちゃん
「その後はどうですか?」

保健師さんは何事もなかったかのように話続ける。
私の心臓はバクバクしていて背中には冷や汗が流れている。

「ええ、お陰さまで」

…そりゃ悩んでる事なんて沢山ある!
けどね。
適当に付き合っていくしかないの、凛と。
言ってすっきりするものなら誰かに言ってる。
でも、言っても仕方ないから言わない。

これはね、私の事をよく知っている透やお兄さんや桃ちゃんに愚痴っても仕方がないのよ。

「まあ、家に小児科医がいらっしゃいますからね!
いつでも何でも相談できますよね」

…出来ませんよ。

それよりもどうしてそんな事を皆に聞こえるように言うのかな。

「ええっ!!旦那様、お医者さんなんですか!!」

若いママが食いついてきた。
目をキラキラ輝かせている。

「…まあ」

そうなんだけどね。
私はこっそりとため息をついた。

「ちょっと、旦那様に聞いて貰えません?
この子のこの辺りがアレルギーかなって思うんですけど」

嫌がる子供を無理やり抱っこして私の前に連れてくる。
その子は大粒の涙を流して足をバタバタさせていた。

「…口頭で伝えても意味がないと思いますよ」

勢いに押されないように返す。
でもその若いママはスピーカーのように話掛けてくる。

「えー!!いいでしょ?それくらい」

それくらい?

「それくらいって、そんなに軽い事なんですか?」

私の中で何かが切れた。

「軽い状態なら家でお母さんが見てあげてください。
どうしてもだめならきちんと病院でお医者様に診て貰ってください。
私の夫は遊びで医者をしているわけではありません。
治療に対して報酬を頂いています。
重症患者に対しては寝ずにその人の命を預かっているんです」

言ってからしまった、と思った。
周りの人たちが口をぽかんと開けてこっちを見ている。

ああ…透、ごめんなさい。
きっとこんな発言を私がしたら、透の価値が低く見られてしまう。
体調がおかしいせいか、いつもなら止めるのに自分の感情が止められない。

私はあうあう声を上げているご機嫌な凛を抱っこして俯いた。
もう、帰りたい…。
俯いたまま立ち上がろうとした瞬間。

「そのお母さんの言っている事は正しいですよ」

その声の方を振り返ると凛とさほど変わらない月齢の男の子を抱いたお母さんが冷静な目をしてこちらを見ていた。
そのお母さんは私と一瞬目が合うとにこっと微笑む。

「『それくらい』っていう言い方、ないと思います。
実際の目で患者を診ない事には医師も判断に迷う所はありますからね」

若いママはキッ、とその人を睨むと

「医者でもないくせに」

と言葉を吐き捨てる。

「…私、このお母さんの旦那さんのお兄さんと仕事を一緒にしていましたから。
一緒にといっても私は看護師でしたけどね」

…えっ?
< 85 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop