ばくだん凛ちゃん
私はその方の顔をじっと見つめる。
…お兄さんと一緒に働いていたんだ。

「いくら旦那さんが小児科医でもそういう事を頼むのは失礼極まりないし、迷惑ですよ。
それと…」

保健師さんに視線を移した。

「旦那さんの職業、知っていても皆の前で言うのは駄目ですよ。
個人情報の漏洩ですよ。…特に医師のご家族は嫌がる事が多いですし」

その方はそう言うと自分の荷物を取り出して帰る準備を始めた。

「今日はこれで失礼します」

子供を抱っこ紐で抱っこして荷物を持った。



…私も帰る!



このお母さんともう少し話をしたい!
いや、しないといけないと私の脳内がサイレンを鳴らし続けている。

私が帰る準備をしているとスタッフの方や保健師さん、若いママが慌てだす。

「本当にごめんなさい」

皆が謝ってくるけれど今の私にはそんなことどうでもいい。
さっきのお母さんを捕まえないと。

「もう来ないなんて言わないでくださいね!!」

スタッフの方に泣きそうな顔をされてハッと我に返る。
多分、私必死になって帰る準備をしていたから怒ってると思われたのかも。

「あ、いえ、また来ます」

ちょっとだけ笑みを見せて私は退室した。
もう、靴置き場にはいない。

慌てて階段を下りて外に出る。
どっちだろ?
左右何度も首を振って見てみる。
いない…。

えーっ…。

がっくりと項垂れて家の方向に歩きはじめる。
どうしてもお礼を言いたかったのになあ。

ガチャン!
ソフトドリンクの自動販売機から音が聞こえる。
何気にそちらを見ると。

「「あ!!」」

お互いの声が重なった。

さっきのお母さんが取り出し口からペットボトルを取り出しながら目を丸くしてこちらを見ている。

「あのっ!」

私は声を掛けた。
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