夕月に笑むジョリー・ロジャー
反射的に顔を上げる。
そうして視界に映り込んだのは、黒いフード付きのマントを纏う──真っ白い、頭蓋骨だった。

常識的に考えて本物じゃなくて髑髏を象ったお面だろう。
予想はできたけど不気味なことに変わりはなくて、咄嗟に足を止めたその瞬間、空気を切る音が、確かに聞こえた。

「────、」

無意識のうちに息を止めてしまっていたのは、切り付けられたような気がしたからだ。
目の前で、視界を両断するような勢いでもって何かを振られたような気がした。

けれども自分の身体にいくら触れようと何一つ変わったことはなく、再び前方を確認すれば、そこにあるのは何の変哲もない交差点の景色だけ。
どこにでもいるような人達がぽつぽつと歩いている姿が映る以外、目を惹くものは何もなかった。
髑髏も、フードも、見あたらない。

「…………何……?」

今のは、一体何だったんだろう。
錯覚にしてはあまりにも明確に映ったそれに、思わず眉間を指先で押す。

寝不足のつもりはないから、疲労でも溜まっていたんだろうか。
それにしては、どうにも奇妙に思えるけれど。

これは元喜くんのことを気にしている場合じゃない。
大学に行って早めに着席していた方が良さそうだ。
そう判断して、その場で身を翻した瞬間だった。


信号は青。
だけど、左側から急激に迫ってきた陰に気付いた瞬間、世界は一気に黒へと染まる。

遅れてブレーキ音を耳にしていたことも理解したけど、全ては後の祭りだった。


声を出す暇もなく、暗転した視界の中、誰かの痛切な悲鳴だけが、微かに聴覚を刺激して。


ああ、何かに轢かれたな、と、薄れゆく意識の中で悟る。


そうして、私は人生を終えた。

──私の、"最初の"人生を。



* * * * *



「単刀直入に言えば、間違いだったわ、貴女の死」

「…………はあ」

前置きなしに気怠げにそう告げられても、そうですか。としか言いようがなかった。

あの世に関しての話は何種類か知ってはいたけれど、私の場合、いきなり別の場所にいて、しかも髑髏のお面を被った黒マントの人達に強引に連行されてきたものだから、理解が到底追いつかない。

そもそも、ここはあの世なんだろうか。
傷もなければ痛みもなく、服装も朝に家を出たときの状態になっていて、死んだことすら嘘のように思えてきた。
強いて言うなら、鞄を持っていないことが違いといえば違いだろう。
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