夕月に笑むジョリー・ロジャー
連れて来られた先にあったのは、西洋……じゃないな。これは何処だろうか、インドとかそういう系統……? の雰囲気がいくらか漂っているような、宮殿の内部のような豪華な雰囲気をしている一室……の、広間だった。

その最奥の真ん中には若干床が高くなっている場所があり、玉座のような印象を受ける、色とりどりの装飾が施された金色の椅子が置かれてる。
ソファのようにゆったりと全身を横たえることができる程の大きさのそれに優雅に寝そべっているのは、絶世の美女……と、表現しても差し支えない、妖艶な雰囲気の女性だった。

褐色の肌に、薄い桃色のようにも見える長い髪。容姿や体つきの完璧さも相まって、見れば見る程人間ではないような印象を受ける。
若過ぎず、かといって年を重ね過ぎているわけでもないぐらいの年齢に思えるその女性は、多種多様の外見をした様々な年齢の男性を何人も周りに侍らせながら、報告書らしい巻物を興味薄げに眺めていて。

「派遣した死神が見間違えたのね。こんな単純ミスなんて、ほとんどないはずなのに」

右手では一人の少年の顎を猫にするように撫でながら、彼女はさらりとそんなことを呟いてくる。

前例があんまりないとは言っているけれど、そう大きな問題として捉えられていないことは、女性の雰囲気から明らかだ。
そんなものなのだろうか。まあ大した人間ではないのは事実だろうけど……なんてことを、待たされ続けている私は一人ぼんやりと考えていた。

だけど。


「よっぽど似ていたのかしらね」


──そんな独り言が聞こえてきたものだから、思わず顔が強ばった。
滅多にない過ちを犯してしまう程、本来亡くなるはずだった相手は、私とそこまで酷似した相手だったらしい。
思いがけず知らされた事実に、思わず視線を床へと落とした。

「どうしたいかしら?」

けれどもそんなことを突然問われ、私は何度か瞬きした後、再び顔を上げて女性を見た。
また別の男性に髪を整えさせている彼女は、心地好さげに目を細めつつ、下方に座り込みつつ控えている青年の髪を撫でながら戯れている。

本当に、彼女の口から尋ねられているのだろうか。
そんな疑念を抱く程、彼女にとっての私なんてほとんど存在していないかのように思えてならない。
まあ、実際に、大したものとして認識されてはいないだろう。

「今ならまだ貴女も荼毘に付されていない。神である私の力をもってすれば……本来の状態に戻すのも不可能じゃあないけれど」


……まるで悪魔の取引だ。

そう感じたのは、私がもう幼くはない証と思って良いんだろうか。
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