夕月に笑むジョリー・ロジャー
こんな小さい子供達が相手でも、自分の一挙一動を気にする存在がいるっていうことが優越感を湧き立てて堪らないんだろう。
満足そうに唇を歪めて笑ったこの船長は、再び私に視線をくれると、上から下までをまた舐めるような目で見ていった後、不意に何かに気付いたらしい。

「おい、首元のそりゃ何だ」

顎で示しながら紡がれた台詞に私が顔を顰めたのは、指摘された物が何なのかを瞬時に理解したからだ。

触らせたくなかった。
こんな嫌悪感しか覚えないような相手に──あの人とは正反対の要素ばかりのこの人に。

だけど、自由の利かないこの状態で抵抗ができるはずもない。
あっさりと第三者の手中に収まるそれを……宝石のついた首飾りを、私はただ見ていることしかできなかった。

「こりゃルビーだ!」

「それもデカいぜ!」

さすがに宝石の価値はすぐに分かったようだ。
私の持ち物であることは変わっていないはずなのに、まるで自分達の所有物になったとでもいうように喜色満面に報告する姿が酷く腹立たしい。

苛立ちに目を細めた私には気付かなかったみたいだけれど、彼らはまた別のものを視界に捉えたようで。

「何か書いてあるな……」

裏返しにして、三人がかりで覗き込む。
彼らの目には、多分、小さくもはっきりとした一文が映ったはずだ。


──『Jas. to Luna』。

そう、裏面に明確にしっかりと刻まれている文字が。


「ジャス……?」

省略された名前にぴんとくるものがなかったのか、彼らは全員困惑の色を浮かべて顔を見合わせた。

けれどもそうして無言でいたのも数秒のこと。
彼らの血の気が引いていく音が聞こえてきそうな勢いで、三人ともの顔から同時に血の気が引いていく。

多分、分かったんだろう。
この国でそんな風にファーストネームを書くのは一体誰か──そのことは、確かあの小説にもきちんと書いてあったから。


「……ジェームズ・フック!?」


聞き慣れた名に、男達どころか子供達までもが驚きに顔を上げたのが分かった。

ああそういえばと、ピーター以外の子供達には、ほとんど説明をしていなかったことに今更気付く。
例外であるピーターだって、記憶力に関してはあんまり良いとは言えないから、何処までちゃんと覚えているかは正直分からないけれど。

でも、私と実際に関わりのあるあの子達ですら知らないんだ。
本を読んだだけの見知らぬ彼らが、その事実を把握しているはずもない。
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