夕月に笑むジョリー・ロジャー
「どういうことだ!?」
「何でこのガキがそんなモン持ってる……!?」
「ピーター・パンの仲間じゃねェのか!?」
零れたコップの水のように、あっという間に広がっていくどよめきの声が、彼らの動揺の大きさを如実に示していた。
恐らく、彼らの中には一つの認識があったはずだ。
──ピーター・パンとフック船長は、その仲間達も含めて、明確な敵対関係にあるっていう、物語通りの認識が。
だからこそここまで動揺しているんだろう。
あくまでピーターの仲間に過ぎない、ただの人間の女であるはずの私が、予想外の人物と繋がっている可能性がいきなり出てきてしまったことに。
「──この女に、」
恐る恐るといった体で切り出した一人の男性に、この場にいる全員が揃って彼へと視線を向けた。
比較的気弱そうな印象を受ける顔立ちをしているけれど、震える声を聞く限り、実際のところもそう大差はないだろう。
彼は誰へというわけでもなく周囲に視線を向けながら、酷くゆっくりと唇を開く。
「もし、手を出したら…………フックの怒りを買うと思うか?」
問いを最後に、沈黙が流れた。
互いに顔を見合わせて口を噤んでいる彼らの態度で、例え音に乗せられずとも、答えははっきりと伝わってきた。
……沈黙は、肯定。
つまりは、誰もがそうだと判断したということで。
彼らの間に漂う空気が一気に冷え込んだものと化してしまったのは、偏に恐ろしさの為だろう。
ピーターの仲間っていうだけだったら、例えピーターが助けに来ても、全員がかりで子供一人を相手にすれば良いだけだ。
普通に考えてそんなに大変なことじゃない。
けれども、あの人が相手となればそうはいかない。
敵に回したら最後、部下を率いてやって来る。
それもただの部下じゃない。
子供に比べればよっぽど戦闘慣れしてる集団だ。
この人達も見たところ同業者ではありそうだけど……だからこそ警戒するんだろう。
例え物語の中ではあっても、フック船長はかなり強い海賊として説明されていたんだから。
「……どういうことだ!?」
「話が違う!」
「そうだぜ! オレ達が知ってる話では……!」
「……当たり前でしょう」
続きを敢えて阻んだのは、彼らの言わんとしていることが私には理解できたから。
子供達はわけが分からないとばかりに困惑しているけれど、それも当然の反応だろう。
誰が予想するだろうか。
自分達が暮らしている国の、生きている人達の噂を元にして書かれた作り物語が、違う世界にあることを。
全ての事情を知ってるのは私だけだ。
あくまでも、この場にいる人間達の中では、だけど。
「事実は、小説とは違うんです……」
どんなに本当のことのように書かれていたのだとしても、百聞は一見に如かず。
実際に生きて感じるのとはわけが違う。
ページの最後で永遠に時が止まるわけでもないし、あの物語に書かれていること全部が事実というわけでもなければ、全てが書かれているわけでもない。
だからこそ。
「何でこのガキがそんなモン持ってる……!?」
「ピーター・パンの仲間じゃねェのか!?」
零れたコップの水のように、あっという間に広がっていくどよめきの声が、彼らの動揺の大きさを如実に示していた。
恐らく、彼らの中には一つの認識があったはずだ。
──ピーター・パンとフック船長は、その仲間達も含めて、明確な敵対関係にあるっていう、物語通りの認識が。
だからこそここまで動揺しているんだろう。
あくまでピーターの仲間に過ぎない、ただの人間の女であるはずの私が、予想外の人物と繋がっている可能性がいきなり出てきてしまったことに。
「──この女に、」
恐る恐るといった体で切り出した一人の男性に、この場にいる全員が揃って彼へと視線を向けた。
比較的気弱そうな印象を受ける顔立ちをしているけれど、震える声を聞く限り、実際のところもそう大差はないだろう。
彼は誰へというわけでもなく周囲に視線を向けながら、酷くゆっくりと唇を開く。
「もし、手を出したら…………フックの怒りを買うと思うか?」
問いを最後に、沈黙が流れた。
互いに顔を見合わせて口を噤んでいる彼らの態度で、例え音に乗せられずとも、答えははっきりと伝わってきた。
……沈黙は、肯定。
つまりは、誰もがそうだと判断したということで。
彼らの間に漂う空気が一気に冷え込んだものと化してしまったのは、偏に恐ろしさの為だろう。
ピーターの仲間っていうだけだったら、例えピーターが助けに来ても、全員がかりで子供一人を相手にすれば良いだけだ。
普通に考えてそんなに大変なことじゃない。
けれども、あの人が相手となればそうはいかない。
敵に回したら最後、部下を率いてやって来る。
それもただの部下じゃない。
子供に比べればよっぽど戦闘慣れしてる集団だ。
この人達も見たところ同業者ではありそうだけど……だからこそ警戒するんだろう。
例え物語の中ではあっても、フック船長はかなり強い海賊として説明されていたんだから。
「……どういうことだ!?」
「話が違う!」
「そうだぜ! オレ達が知ってる話では……!」
「……当たり前でしょう」
続きを敢えて阻んだのは、彼らの言わんとしていることが私には理解できたから。
子供達はわけが分からないとばかりに困惑しているけれど、それも当然の反応だろう。
誰が予想するだろうか。
自分達が暮らしている国の、生きている人達の噂を元にして書かれた作り物語が、違う世界にあることを。
全ての事情を知ってるのは私だけだ。
あくまでも、この場にいる人間達の中では、だけど。
「事実は、小説とは違うんです……」
どんなに本当のことのように書かれていたのだとしても、百聞は一見に如かず。
実際に生きて感じるのとはわけが違う。
ページの最後で永遠に時が止まるわけでもないし、あの物語に書かれていること全部が事実というわけでもなければ、全てが書かれているわけでもない。
だからこそ。