夕月に笑むジョリー・ロジャー
──『せっかくだし、集まれる子だけで集まれば良いんじゃないかな?』

『良いの良いの!』

遠慮ではなくて、本気でそう思ってくれているんだろう。
間髪入れずに返ってきた反応に、いつでもそうして明るく気遣っていた彼女の様子を思い返していれば、再び言葉が続けられた。


『朝希がいないと意味ないじゃん!』


決定的な一文だった。

──ああそうだ。彼女も、他の人達も。いつでもそう言っていたじゃないか。
今更だけど、もう何度目かになる台詞にそう悟る。

これは私が説得しても変わらないな。
苦笑して了承の返信だけ済ませると、スマホを鞄にしまい込む。
丁度、大学近くのバス停だ。

そのまま降車した私は、一人で大学の方まで歩こうとして、「おい」と背後から投げかけられた低めの声に振り返る。
見知った顔がそこにはあった。

「……元喜(もとき)くん」

名前を小さく口にすれば、彼の耳にもきちんと声が届いたらしい。
軽く息を吐きながら、彼は両肩を上げてみせる。

「相変わらず、反応薄いな」

「……ごめん」

一応、若干の自覚はあるだけに素直にそこは謝罪した。
どうにも、私は顔がほとんど動かないらしい。

そうはいっても、反応も表情も意図して薄いものにしているわけじゃあなかったから、即座に改善できるかと言えばそうでもなく。
困っているのはさすがに顔にも出ていたのか、彼は自らの顔の前で手を左右に振ってくる。

「いや、良いけど。もう慣れたし」

躊躇いなく告げられたのは恐らく彼の本心だろう。
昔から近所に住んでいるし、いわゆる幼馴染み……に、なる相手だ。
彼が口にしたように、確かにもう慣れた反応なんだろう。

私も比較的身長はある方ではあるけれど、彼の方がやっぱり目の位置は高い。
百七十五センチ、ってところだろうか。
私と大体十センチ差だ。

静かな色合いの服で纏めている彼は、相変わらず生真面目そうな顔のままこちらに歩み寄ってくる。

「はよ」

「……おはよう」

軽く挨拶を交わした後、二人で並んで歩き出す。

行き先は分かってる。同じ大学だ。
学部は違うから最後は別々になるけれど。

まだ講義が始まるまでには大分余裕があるからだろう、歩いている学生の姿はかなりまばらだ。

ふ、と吐き出した息が微かに白くなる。
もうじき冬だな。ぼんやりとそう考える私の隣を歩く彼は、ちらと私に視線を向けてきたらしい。
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