大人の初恋
「そうだ!
 ね、…貴方が運転して…私を乗せてくれたら、いいのにな」
 
 彼が目を見張った。
 マスターがヒューっと口笛を吹く。

「はは…、それは随分と…直接的だ」

 彼は艶っぽく視線を投げた。
 笑うと出来る目頭の下の小さなシワが、何とも優しげでたまらない。

 私の真っ直ぐに下ろした髪を、彼の左手がそっと撫でた。

「まっすぐで艶やかな黒髪……好きだね」 
「へへ~、そこだけは皆褒めてくれるの……ヨ」 

 いけない、地が出てしまう。
 慌てて気取り直し、ほんの少し頬を赤らめる。

「そこだけ?ホカのところは?」
「フフフ。それは…見えてる部分?」

 目一杯に背伸びした演技。いかにも大人の女ぶって、
 ゆっくりとグラスを近づけた。
 カクテルグラスを軽くぶつけ合い、チリンと高い音を鳴らす。

「!」

 目を

 見張った。

 次の瞬間には、唇に軽いキスが落とされたからだ。
 触れるだけの、されたかどうかすら疑わしいくらいのほんの一瞬。
 マティーニのハーブの香りが残った。


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