大人の初恋
「この後を…期待していいのかな」
「ん~、あなた次第…かな?」
 
 案外
 手、早いんだ…

 内心の驚きをひた隠し、私は悪戯っぽく彼の瞳を覗きこんだ。

 もう一度、彼が私の顎に手を掛けた時。


「おっと、サッちゃん。そこから先は外でやってよ。…そういう店じゃないんでね」

 心持ちぶっきらぼうに、マスターのリョウさんが嗜めた。

「悪いね、会計を」

 スッと彼が立ち上がり、私の肩をトンと叩いた。
 合わせて私も立ち上がる。
 これはもう
 ……ドキドキが、止まらない。

「まいど」
 彼は私の分まで会計すると、先に小さな扉を出た。

 春先の、夜気の程好い冷たさが、酔った身体に心地良い。
「ん~、気持ちいいっ」
 私が手足をウーンと伸ばすと、彼がゆったりと微笑んだ。

「君はどっちが本当なのか…案外子供っぽい方か?」
「ち、違うわ、そんなんじゃない…」

 私は慌てて手を下ろした。
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