大人の初恋
 6分前、本社ビルのエントランスに駆け込んだ。私と同じ、駆け込み社員が満載のエレベーターに“待った”をかけて、ギュウッと入り込む。
 5Fに到着、ジャスト5分前。

 よし、イケる。
 オフィスに向かう廊下にて、ヨレた着衣を整えて、目の隈を誤魔化すダテメガネを装着。
 乱れた髪を撫で付けて、意気揚々と引き戸を開扉。

「おはようござ……」

 あり?
 
 何やらフロアがシ――ンとしている。

 みると皆がデスクから起立して、一様に前を向いている。
 しかも雛壇席には、見慣れぬ男性が立っているではないか。

 ………。

 瞬時に気まずい沈黙が流れた。

 ポカンとしている私を、後輩のアキちゃんが慌てたように手招きしている。

 私はペコリと頭を下げて、急いで席へと走った。

(も~~遅いですよ、サツキセンパイ。もう始まっちゃってるんですから!)
(ゴメン…今日、何だっけ?)

 アキちゃんは、“ホラ”と前を指差した。
 コホン。

 小さな咳払いと共に、5階の広いフロアによく通る深い声が響きわたった。

「F製薬から、人事交流ということで、こちらへ来させて頂きました。
1年という、短い期間ではありますが……」


 そして私は、

 その声の主を改めて見て、

 もっと唖然とてしまった。








 
 
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