大人の初恋
 (ア、アアアキちゃん、あれ……)
 私は小さく前を指し示す。

 (も~、『ア』が多いですよぉ、サツキセンパイ。新しく来た部長さん。
 ねっ、カッコいいでしょう?
 私、初めてこの部に来て良かったと思いましたっ♥)

 そういえばあのジジイ(前部長だよ)、3月で定年だったっけ……
 くそ、文句をいう相手がいなくなった。


 それはともかく、アキちゃんはすでに頬を桜色に染め、朝っぱらから恍惚とした表情を浮かべている……

 そして私はオドロキを隠せない。

 そう。
 部長席で着任挨拶をしているのは、間違いなく1ヶ月前に私が逆ナンした男(ヒト)で、一夜の刹那の恋のお相手の『ナルセ』……

「……立真です。どうぞ宜しく」

『成瀬部長』は折り目正しく一礼をして、それからニコリと微笑んだ。
 
 隣からひときわ熱心な拍手の音が流れてくる。


 ははははは……


 私は手を打つ事も忘れ、じきに真っ白な白昼夢に捉われていった……
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