大人の初恋
………

 あれ以降、結局私は彼と会うことはなかった。

 貰った名刺も、バッグに入れっぱなしだったし、アドレス帳に登録もしなかった。


 日常生活に戻って頭が冷えてくると、やはりあの夜の私はどうかしていたと思えてきたからだ。

 失恋したばかりで情緒が不安定になっていたようにも思えたし、高級車のカギで舞い上がって、まんまとヤられただけの気もした。

 何より気に障ったのは “気が向いたら出るから”の言葉。

 あんな風に言われて、ホイホイ私から連絡をとるなんてオコトワリだ!

……という気持ちが強かった。


 な~んてね。
 格好良く言ってはみましたが……白状すると、実は多いに揺れていました。

 ハイ。

 何せ相手は大企業のエリートで、今はフリーのシブいイケメン。
 しかもカラダの相性は最高……

 今カレ無しの私としては、縁を繋ぎたいのが人情というものではないでしょうか?


 で、1回、1回だけ。
 悩んだ末に電話してしまった。
あれから丁度、2週間後の事だった。

 しかし。
 その電話に彼は出なかった。
 すると急に気持ちが冷めて、以来サッパリ諦めがついた。 

 ベッドテクニックにそぐわない、彼の誠実そうな雰囲気でつい信じてしまったが……
 冷静に考えれば、あの名刺と番号がホンモノかどうかすら疑わしい。

 彼の言ってた“悪い友人”に借りた可能性だってある。

 ふ、ふふふ……
 バカみたい、と自嘲した。


 やはりあれは、慣れない冒険心の手痛い社会勉強だったのだと、再び初心に返っていったのだ。
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