大人の初恋
 今。

 少なくともあの名刺がホンモノだったということが判明した。

 部員一人一人のデスクを回ってに挨拶している彼が、段々と私に近づいてくる。

 鼓動が煩いほど響く。ジトッとイヤな汗がブラウスの中を伝った。

 彼は……私の顔を見て、どんな反応を示すだろう。きっとびっくりするだろう。

 マサカ逆ナンした男が上司になるなんて……

 頭を抱えていた私に、 

(センパイセンパイ、来ましたよぉ)
 アキちゃんが浮き浮きと耳打ちした。

 エエイ、平常心!

 キッと顔を上げ、覚悟を決めて席をたった。

 成瀬部長が、座席表と私の顔を見比べた。

「ええと…『如月…皐』、主任だね?初めまして、成瀬です」

 ニッコリ笑って左手を差し出す。

「ヨ…ヨロシクオネガイ…します」

 妙に上擦ったヘンな声に、隣にいたアキちゃんがプッと吹き出した。


 彼は全く顔色を変えず、力強く手を握った。
 私みたいな動揺は微塵もない。


 あれ、どうして?


 首を傾げた私に、彼はもう一度微笑んだ。

 
 もしかして……


 私の頭にあった疑念は、確信に変わった。


 この男……


 私のコト、覚えてない!



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