大人の初恋
……なんか、ハラ立つわ。

 私は苛々と頬杖をつき、同じようにアキちゃんと握手を交わす成瀬部長を横目で眺める。

「よ、宜しくお願いしまっすぅ~」

 あ~あ、アキちゃんったら。あんなに真っ赤な顔してさ。
 分かりやすいったらないわ。

 トロンとした目をして、いつまでも手を離さないアキちゃんに、成瀬部長もとうとう苦笑いしている。


 …にしても、この男は。

 あの日のコトなんて、すっかり忘れちゃってる……てワケですかぃ。

 この私をよ?
 綺麗だの何だのとあんなに熱い言葉で誉めそやした私を。

 あんなことやこんなことで……朝方まで目一杯盛り上がったのに?


 終いには、プルプルと身体が怒りに震えだす。


 こっちが忘れてるならともかく、向こうが忘れてるなんて……


 絶対に許せない‼


 ようやくアキちゃんを振り切った部長は、颯爽と席に戻ってゆく。
 年配の参事と話しを始めた彼を、私はキッと睨み付けた。


 そして。
 デスクからそおっと取り出したスマートフォンを、引き出しの下で操作して……
 
 かつて1度だけかけた履歴。

 “ナルセタツマ”の番号を


 思いきり鳴らしてやったんだ。


 ♪RRRRRRRR ♪……

 
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