大人の初恋
 ところが、今までウンウンと頷いて聞いていてくれた彼が、突然イジワルな事を言い出した。

「フン。そんな君にオトコは甘えてしまうんだろ。
 ……そして同時に不安になる。“俺は本当に愛されてるのか?”“自分でなくても構わないんじゃないか”
 そしてその勘繰りは、的を得ていなくもない。
 君だって…無理をしてまで繋ぎたい相手じゃなかったのさ。きっと…」

「なっ…」  

 彼は、酔いに上気した面持ちで、グラスの表面に映った自分に話しかけるかのようにひとりごちた。

「君はまだ、本当に人を好きになった事がない…失っても、飲んで喚いて忘れられる相手は…きっとその程度だったのさ」

 渇ききった虚な笑み。


 なんて…
 なんて酷いコトを‼


「あ、あああ…アンタに何が分かるのよ⁉」

 気色ばんだ私に、彼はハッと顔を上げた。

「あ、ああ……すまない。気に障る事を言ったかな」

「サワるもなにも、ヒドイじゃないのよさ⁉
フラれたばっかのカワイソーな私にですよ⁉」

 食ってかかった私に、彼はやんわりと返した。

「イヤ、僕もよく……同じコトを言われるからね。“本当に好きじゃないみたい”?
だから君達の話につい、聞き耳を立ててしまった。悪かったね」

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