大人の初恋
また少し経つと、私は次第に気持ちを持て余すようになっていた。
彼の一挙一動が、心の奥が気になるようになってきたのだ。
彼は時々、心ここにあらずというふうにボンヤリ遠くを眺めているときがあって、それが堪らなく寂しい。
あれは、秋も半ばの月の綺麗な夜だった。
その日のデートで、ピアニストのリサイタル会場から、腕を組んで出てきた私達。
道行く人がイチイチ振り反るのがいい気分だ。
その日のイケメンピアニストの演奏は、付け焼き刃の私にでも分かるくらい最高だった。
すっかり興奮した私は、冷めやらぬ感動を彼に熱く語っていた。
「だから、あの間の取り方は誰にもマネできない…成瀬サン?」
「…………」
彼はコンサート会場から出てくる人の群れの中を、じっと凝視していた。
「成瀬さん!」
「……え?ああ、ゴメン。何だっけ?」
「もうっ。だから」
彼はそれでも、心ここにあらずという感じだ。
不思議に思って彼の目線を追ってみる。
と、ピンクベージュのコートを着て、背の高い男性の横を飛び跳ねるように歩く女の後姿を、ボンヤリと見ている。
私とは全然似ていない、栗毛の小柄な女(ヒト)。
ムッとして、わたしは彼の腕をギュッと胸に寄せた。
彼の一挙一動が、心の奥が気になるようになってきたのだ。
彼は時々、心ここにあらずというふうにボンヤリ遠くを眺めているときがあって、それが堪らなく寂しい。
あれは、秋も半ばの月の綺麗な夜だった。
その日のデートで、ピアニストのリサイタル会場から、腕を組んで出てきた私達。
道行く人がイチイチ振り反るのがいい気分だ。
その日のイケメンピアニストの演奏は、付け焼き刃の私にでも分かるくらい最高だった。
すっかり興奮した私は、冷めやらぬ感動を彼に熱く語っていた。
「だから、あの間の取り方は誰にもマネできない…成瀬サン?」
「…………」
彼はコンサート会場から出てくる人の群れの中を、じっと凝視していた。
「成瀬さん!」
「……え?ああ、ゴメン。何だっけ?」
「もうっ。だから」
彼はそれでも、心ここにあらずという感じだ。
不思議に思って彼の目線を追ってみる。
と、ピンクベージュのコートを着て、背の高い男性の横を飛び跳ねるように歩く女の後姿を、ボンヤリと見ている。
私とは全然似ていない、栗毛の小柄な女(ヒト)。
ムッとして、わたしは彼の腕をギュッと胸に寄せた。