大人の初恋
「ん、どうした?」
 やっと気付いた様子の彼が、私の方を見下ろした。

「何でもない!ううん、寒い!」

 すると彼は、黙って私を引き寄せた。彼のコロン、ブルーノートの香りに包まれた。
 そのままゆるゆる歩きながら、私は思いを巡らせる。

 これは私の第六感。

 遠くの町にいるという彼の元の奥さん。

 彼は、その面影をさっきのヒトに見ていたのかもしれない。それとも本人だったのか……
 イヤだな私。

 これは“嫉妬”なの?


 その夜の私は、滅茶苦茶に抱いてほしいとねだって彼を困らせた。
 苦笑いしながら、そんな君も可愛いと、言うなりに、大腿に膝を入れてくる。

 いつも優しく甘やかに、時には激しく荒ぶって、私の意のままに抱いてくれる彼。


 なのに何故。

 どうしてこんなに不安になるの?
 
 こんな気持ちは初めてだ。



 私はどんどん彼を好きになっている。

 なのに彼は、出会った最初の頃のまま。


 逢いたいと、抱いて欲しいと我儘を言うのは私だけ。

 今夜もそう、私ばかりが飛ばされるーー
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