大人の初恋
「ま、後で見とくわ」
「お願いします」
 彼女は、パアッと満面に笑みを浮かべた。
 私はデスクに書類を放り、急いで会議室に向かった。


 それがいけなかった。
 その後、何かとイレギュラーな仕事が入り、ついそれを置き忘れていたのだ。

 更にその夜は久々のデート。イソイソと定時には帰って、そのやりとりすら、すっかり忘れてしまっていたーー

 ………


 その命令が下ったのは、その出張の前日だった。
「部長!どういうことですか?」

 成瀬部長がパソコン画面から視線を上げた。

「どうもない。今回君には外れてにもらう。こちらに残って、バックアップにあたってくれ」

「…私はメンバーに入っていたはずです。急に変更だなんて…」

 彼はフーッと溜め息をつき、席を立つと、私に後に続くよう促した。

 室内に妙な空気が漂った。アキちゃんが気まずそうに目を逸らした。


 小さな打ち合わせ室に入ると、声の漏れぬよう彼はドアを締め切った。

「君、水谷サンに約束してた事、覚えてる?」

アキちゃんに?
あ……

「その様子じゃ、忘れてたみたいだね」
「それは…その」
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