大人の初恋
「そろそろ私が恋しくなってきたかと思ってね。成瀬サン?」

「何を⁉」

 私は構わず、向き合った彼の膝上に乗り上げた。
 彼の首に両手を回し、懐かしい唇に思う存分口付ける。
「…ん…」

 芯に火が灯ったように、身体の内奥から熱くなる。
 
 しかし彼は、やんわりと私の身体を引き離した。

「ふぅ…」

 蛍光灯の灯りに、濡れた唇が艶やかに光る。

「止めなさい。ここはそういう場所じゃない」
「どうして、連絡してくれないの?」
「………」

 黙っている彼に私はニコリと微笑むと、今度は彼の手を取って、私の胸元に押し付けた。それからさらに、彼の下腹に手を伸ばす。

 彼が色っぽく、目を細めた。熱い体温と互いの興奮が伝わった。

 だが。

 彼のベルトに手をかけようとしたときに、手首をしっかりと掴まれた。

「止めなさいと言っている」

「何故?貴方だって……こんなに感じて…」

「ここは会社だよ。
 恥を知りなさい」

 なんて冷たい言葉。

 そこには恋人への情など微塵も感じられない。


 私は黙って立ち上がった。
 怒気を孕んだ彼の目をまっすぐに見据えせた。

「成瀬サンは……私のコト、ちっとも見てくれてないもの…」

 スッと涙が溢れておちた。

「如月…」

 私は、彼の顔を両手でそっと挟み込む。
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