大人の初恋
夕刻ーー

「エヘヘ…」
 いけない。顔が勝手に笑ってしまう。

 デートはいつも外だったから、家に行くのは初めてだ。

 場所は緊急連絡先の住所録とグーグルマップで特定した。

 それで退社後、都心に近い彼の自宅、かなりの高級マンションに、私は足を急がせている。

 メールは一応入れといたけど……
 いきなり行ったら、きっとビックリするだろうな。

 ちょっと照れて『ありがと』って、優しく笑ってくれるかな。
 
 私は、山ほどの食料品や薬(それに『あわよくば』のお泊まりセットも)を両手に抱え、彼のマンションを訪れた。

「ああ、君か…」

 パジャマ姿で現れた成瀬部長は、困ったように頭を掻いた。

 カワイイ。
 いや、見惚れている場合ではない。

「あの、入ってもいい?」

 が、予想に反して彼は返事を躊躇った。

「……ダメ…かな…もしかして、メイワクだった?」

 急に押し掛けたからかな?
 浮かない顔をした彼に、少し不安になってきた。

「い、いや。
 ちょっと待ってて。片付けるから」

 ここで待つようにと私に告げ、彼は奥に下がってしまった。
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