大人の初恋
 イメージじゃないけど、意外と散らかってたりするのかな?
 なら掃除だってしてあげるのに。

 クスッと笑みが漏れる。

 モノトーン調でまとめてある、整然とした玄関先を私はキョロキョロ見回した。

 あら?あれは……

 飾り棚の上に、初めての夜に見た、あの指輪が置かれている。

 チェーンを通してあるプラチナリングに、“with you ”の刻印。

 あれ、ここにあったんだ。
 ふと見ると、隣に写真立がある。

 あら、倒れてるじゃない。

 私はそれを立たせようと手に取った。

「…………」




「待たせたね、入って」
 暫くすると、上着を羽織った成瀬サンが現れた。

「う、うん」
 私は彼の後に続いた。

 示されたリビングのソファに、私は座った。玄関先と同じように整然とまとまった部屋には、散らかったような跡はない。

「あの、調子は?」
「ああ、すっかりいいよ。明日には出られそうだ」
 彼は優しく微笑んだ。
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