大人の初恋
 彼は、さらに続ける。


 空しさが募った。
 もう仕事にも支障をきたし始めていたから、僕は悪友だった専務に相談した。 
 “会社を辞めたい。迷惑をかけるから”と。

 しかしヤツは僕を引き留めた。

『オマエは大事な人材だ。1年間何とかするから、少し身体を休めてこい』

 そう言って、ここの会社の専務と昵懇だからと、ポストを用意してくれた。

 そこまでしてもらったからにはと、何とか立ち直ろうとして、僕は足掻いた。

 そんな時に、君に誘われて一夜を過ごした。


「『遠くにいる』なんて言ったのはね、『もういない』よりは『振られたけど遠くにいる』、そう思う方がマシだったかったからだ。
 哀しいだけの真実に、一体何の意味があるだろう」

 自問する彼に、かける言葉は見つからない。
 押し黙った私に、彼は力なく首を振った。
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