大人の初恋
………


「だから俺は最初っから反対だったんだよ、ろくなヤツじゃないってさ」
「……アノヒトのこと、そんな風に言わないで」

「女々しい弱虫」
「繊細なの」

「優柔不断な」
「優しいの」

「気障っちい女タラシ」
「格好良くてマメなの」

「ダメダコリャ」

「何か言った?」
「いや、別に」

今夜のお客は私一人。

 リョウちゃんが席に着くなり出してくれた、淡いピンクのカクテルの最後の一口を飲み干すと、私はカウンターにゴロリと頭を寝かせた。


「リョウちゃん…今日の私にはもう…泣き喚く力もない」

「そ」

 彼は素っ気ない。

「私さ、今日は仲直りしようと思ってたんだよねぇ。それがさぁ、こんな話になるなんてさ」

 彼は黙って次の飲み物を作りはじめている。

「ねえリョウちゃん?
 成瀬サンはきっと。
 3年間も泣けないくらい、悲しかったんだよねえ。
 自分で感情を塞いじゃうくらいにさ。
私、彼に何にもしてあげられないや…」

 私は顔を見られないように、ゴロリと頭の向きを替えた。
 自分の為に泣けない涙は、彼を思うと自然に流れた。
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