大人の初恋
「私ね、今回はもう『仕方ない』って言えないかも知んない」

 コトりと頭の反対側に、グラスが置かれた音がした。
 続いて彼のオドけた口調。

「ドウゾお客様。当店自慢の、『マルガリータ』でございます」  
 
 マルガリータ、『恋人の喪失』
 
「…………」

 それでも一向に頭をもたげる気配がない私に、彼は静かに語りかける。

「しなくっていいんじゃね?」
「え?」

「格好つけのサッちゃんの、いつもの『物わかりのいい』演技。
 アイツのコトはいけ好かないけどさ。
 俺は今のサッちゃん、いいと思うよ?」


 ピクリと耳だけを動かした。
 彼の声が、しみじみと語ってる。

「俺、未だに出逢えてないもん。
 心からの『好き』って、なりふり構わず言える人。
 一生に出会えるか出会えないかだと思うわけ。サッちゃんはさ、もしかしたら出逢えたのかもしれないね」

 私は涙を流しっぱなしで、クルリと顔の向きをかえた。

「うん、全部好き。弱いところも、狡いところも………私を振った理由まで。こんなコトってある?」 

 冷気を放つグラス越しに、優しいリョウちゃんの顔が見えた。
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