大人の初恋
 2月ーー
 彼が去る1月前。
 意を決して、私は勝負に出た。

 イロイロ勉強はしてみたものの、結局どれも奥深すぎて、すぐに素人にできそうなものではなかった。だけどそれでも、自分なりにできそうな1つ考えた。
 これしかないと見定めた。


「成瀬部長。少しお時間宜しいでしょうか」

 昼休憩。
 デスクでサンドイッチをかじっていた彼は、小さく頷き私を打ち合わせ室に誘った。

「何?」
 相変わらず口の端を少し上げ、緩やかに私に目線を投げる。
 その仕草は、今でも私を疼かせる。

「プライベートなお話を、構いませんか?」
「ああ、いいよ?」

 彼は取り繕って微笑んだ。

「あの…あっちに戻ってしまわれても…私と会っては頂けないですか?」

「悪いけど君と僕はもう…。
 勝手だけど僕のコトは忘れてくれ。元々そういう約束のはずだ」

 予測通りの答え。
 さて、ここからだ。

「あの!復縁したいとか、そういうのじゃないんです。
 その、私聞きたいんです。
 部長と奥さんの思い出を」

彼は鼻先で笑った。

「ふん、バカなことを。
 あんな話を聞いたからって同情してるの?ボランティアか?
 そんなものは必要ない。もう復帰しても大丈夫、仕事はこなす自信がある。
 わりかし僕は強靭にできて…如月主任?」
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