大人の初恋
 こうして私達の奇妙な関係は始まった。

 会うのは3ヶ月に1度。1回目、2回目は混じりっけなしの仕事の話。


 だけど3回目の時、時間の関係で昼食を取りながらの打ち合わせのとき。

「あのコは、グラッセが嫌いだった。好き嫌いが多かった」

 フランス料理の皿を見ながら、懐かしそうに漏らした。

 私は黙って頷いた。

 そう、自分でも出来そうなコトはたった1つ。ただ聞くだけ。
 専門家でもない私に、助言や反論は一切ナシ。それが自分に課したキマリだ。


 それからはポツポツと、本当に2言3言だけ、昔話をしてくれたが、その頻度は徐々に高くなっていった。


 2年目が半分を過ぎた頃には、プライベートにも会う約束をするようになった。

 モチロン、色っぽいのは一切なし。
 彼は、少しすまなさそうに、遠慮がちに私に話を聞かせてくれた。

 それは、自分を責め続ける内容だったり、かと思えば楽しい思い出だったり。

 私はやっぱり黙ってそれを聞いていた。

 彼は「すまない」と謝ったが、私は笑って首を振った。

 年が終わる頃には、会ったこともない彼の奥さんに、友達のような親近感をもった。

 そして、こんな私達の関係は、実に2年間も続いたのだ。
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