大人の初恋
「……それで、君さえ良かったらだけど…」

 胸ポケットから、小さな小箱を取り出した。

「?」

 差し出されたままに受け取ったのは、ティファニーの小箱。

 え?
 これって…?

 ハッと彼を見上げると、彼は照れ臭そうに横を向く。
 
「あのコに……きちんと許して貰ってからにしようと思って。
 …これから…ずっと側にいてくれないか?」

 私の答えは決まっている。
 黙ってコクリと頷いた。

 彼がホッと息を吐く。

「君にはしてもらってばかりだった。これからは、あのコにしてやれなかったコトを含めて君にしてやれればと……思ってる。君さえ…」

 私は彼を遮った。
 震える声を隠すように、目一杯声を張って。

「良ければ、じゃないです!
 私が“ダメ”って言ってもそうする、って。ちゃんと言って下さいよ」

 彼の頬がまたパッと赤らんだ。

「そ、そうか?…そうだな。そのつもりだ」

 見上げて笑いあう。だって上向いてないと、涙が落ちてしまうから。
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