大人の初恋
 約束のリングが私の指に嵌められて、そっと私から彼が離れた。

「それから」

 彼は、ポケットからもう1つの指輪を出した。

「できればこれも、君に持っていて欲しい。イヤなら、処分してくれて構わない」

 “with you”の刻印
 チェーンのついた、あのコの指輪。

「君が忘れなくていいといってくれたから。
 象徴(コレ)がなくても、彼女はシッカリと心の中にいる。もう僕には必要ない」

 少し淋しげに笑んだ彼。
 しかしこれも、私の答えは決まっている。

「私がつけててもいい?」

 ニコっと微笑み、首にかけた。

 彼は意外そうな顔をした。

「いいのか?
 あまりいい気分じゃないだろう。そりゃあ僕は……嬉しいけど」

「もう成瀬サンの“あのコ”はね、他人って気がしないの」

 これは私の本当の気持ち。

 彼ったら、また泣きそうな顔してる。

 ねぇ成瀬サン。
 年をとったら、涙もろくなるみたいですよ?

「…サツキ…」

 彼は私を抱き締めた。
 私も彼を抱き締めた。
 長い長い抱擁は、2年分の想いを乗せて。身体全体にじわじわと染みこんでいったーー
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