大人の初恋
「良かったのに。殆んど使わないんだ…1人じゃ大きすぎるから」

 前と同じに、1人でカウンター席の一番奥にいた彼は寂しげに笑んだ。

 裏腹に、私の心は踊った。

1人…か。決まった相手はいないって事、ヨッシャア‼

 しかし表には、あくまでクールを装う。

「私だって1人よ…維持費だって払えないわ“ナルセ”さん?」

 彼は黙ってニコリと微笑み、ヴィトンのキーホルダーのついたキーを受け取った。

「…こないだとは随分と印象が違うね」
「これがホントの私なの」

 プッと吹き出したマスターをジロリと睨み、サッとすまし顔に戻る。


 素面で見た彼は思った以上に………

タイプだ。
 
 落ち着いた話ぶり、苦み走った大人の男。間違っても、前カレみたいなガキじゃない。
 
 そして何より、私の危険な冒険心を刺激するに充分な正統派男前。

 杯を重ね、談笑を続けるうちに、私は必要な情報を聞き出していく。

 職業はホワイトカラーのサラリーマン。
 都内に1人で住んでいて、年齢は35。
因みに今はフリーで自由な身…
 

 そんな彼の理想的な環境は、益々私の危険な冒険心の呼び水となってーー

 いつもよりずっと、私の行動を大胆にした。
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