100万回の祈りをキミに


その日の帰り道。ずっと綾乃に言われたことを思い出していた。

たしかに亜紀を狙ってる女子は多い。校内で見かけると必ず誰かに話しかけられているし、スキンシップをされても嫌な顔ひとつしない。

亜紀は優しいから、例え嫌だと思っても強く突き放せないんだろうけど。


「波瑠~」

語尾を伸ばす呼び掛けにくるりと振り返った。

部活に行ったはずの凪子かなって一瞬勘違いしたけど、そこにいたのは亜紀だった。


「ん?なにその顔」

「え、いや……今の呼び方友達にそっくりで」

「うん。だってちょっと真似したもん。波瑠~って」


亜紀は自分がモテてることとかちゃんと自覚してるんだろうか。

こうして話しかけてくれたり、名前で呼んでくれることは嬉しいけど、距離が近づくたびにもっとって欲張りになる。


亜紀の友達関係とか女子への接し方とか、前はそんなこと思わなかったのにベタベタと女の子が亜紀に触ってるとムッとしてしまう。

亜紀は私のものじゃないし、そんなの高望みなのに……。

あんまり優しい言葉で私を甘やかさないでほしい。


「今日もフットサルに行くの?」

「うん。でもちょっとだけ顔だすだけ。一応受験生だし勉強してるふりだけはしておかないと」

亜紀は成績も生活態度もいいし、推薦をもらえるのは確実だろうけど。


「あ、そういえば波瑠は犬とか好き?」

「うん。動物はなんでも好き」

「じゃ、今度うちに見にこない?実は最近捨て犬を保護してさ。可愛いから飼うことにしたんだ」


うちって……亜紀の家?

家とか行ってもいいの?ってか亜紀は私のことをどう思ってるんだろう。


私の目に映る世界は亜紀のおかげでカラフルになって、今思えば、この曖昧な距離感がじれったくてウズウズして、私は恋をしてるんだなぁって強く実感できた。


ねぇ、亜紀の世界はなに色?


私の知らないその瞳でだれと出逢って、だれと話をして、だれと絆を深めたの?


キミの口から聞きたかったのに真実はいつも、遅れてやってくる。
 
そして心が追いつかないまま、時間だけが過ぎていく。

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