100万回の祈りをキミに


「どうぞ」と亜紀が玄関を開けた。

オシャレな靴箱に整えられたスリッパ。玄関から家のキレイさが分かる。


「い、家にお邪魔するの?私はここで挨拶を……」

「挨拶?今日だれもいないけど」

「ええ?」

……なんだ。練習しなくても良かったんだ。


私の想像では庭に犬がいて、そこで遊んで。中にいるお母さんとお父さんに「こんにちは」なんて挨拶したりするイメージだったのに。

でも待って。だれもいないならいないで、また問題があるような……。


「い、犬は?」

「ん?俺の部屋。まだ子犬だしゲージに入れてる」

つまりそれは亜紀の部屋に行くということだ。

そんなの全然想像してなかったよ……。


亜紀の部屋は2階の一番奥だった。

私はもちろん男の子の部屋に入るのは初めてで、心臓が口から出そうなほどドキドキしてる。


「あんまりキレイじゃないけど」

亜紀がドアを開けると、すごく日当たりが良くてキレイじゃないと言ったけど私の部屋よりちゃんと整理整頓されている。

本棚にはサッカーやフットサルのスポーツ雑誌がたくさん並んでいて、今まで貰った賞状やトロフィーも置かれていた。


男の子の部屋ってこんな感じなんだ……。それにこの部屋は亜紀の匂いがしてなんだか安心する。

と、その時。「ワンワン」と可愛い声が聞こえてきた。


「わぁ、小さいね~!」

そこにいたのは茶色い子犬。雑種らしいけど目が大きくてしっぽもフサフサでぬいぐるみみたい。

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