100万回の祈りをキミに
その日の放課後。ホームルームが終わって私は帰る準備をしていた。今日から中間テスト1週間前で大会を控える部活以外は休み。
それなのに夏井の席にはたくさんの人たちが集まって遊びにいく計画を立てている。
「俺お前らと違って暇じゃねーんだよ」
「は?夏井まさか彼女でもできたの?」
「そうそう。彼女彼女」
「ぶはっ!お前に彼女なんてできるわけねーし」
本当に毎日毎日騒がしい人たちだな。どうせ私が帰ったら私の机も椅子代わりにして喋るんでしょ。
だから人が集まる席は嫌なのに、夏井の隣だし仕方ないけどさ。
「じゃ、この際暴露大会しようぜ!」
「だから俺は帰るって……」
「まずは夏井から。好きな人の名前言え」
「おー!」と盛り上がる中には安藤さんもいる。最近は夏井が気になる話をしてこないけど、どうなったんだろう。
ってかいまだになんで夏井なのか疑問なんだけど。
「まぁ、好きな人っていうか……俺を好きな人は世界中にいると思う。なんつって」
「あははは。ナルシスト一名いまーす。だれか黙らせてくださーい!」
そのうるささに耐えられず、私はため息をついた。
「あれ、藍沢帰るの?」と自称ナルシストがこっちを見る。私は口パクで「バカ」と言って教室をでた。
ああいうおちゃらけた夏井はやっぱり苦手だな。あの輪に入りたくないし。
――その時。昇降口の近くで凪子を見かけた。
「福田さんは普段どんな音楽聞くの?」
「私言ってなかったけどオタクっていうかイーグルの大ファンで……」
「え!マジ?俺も好き!ライブ行ったりするよ」
「本当に?」
凪子は今日岡辺くんと帰ると事前にメールがきてた。
すごく楽しそうな顔。凪子のあんな顔久しぶりに見た。
時々、変化していく日常に足がすくみそうになる。
移り変わる季節がめまぐるしいように、時間が過ぎるスピードも自分の心より遥かに速い。
その速さに付いていけないのではなく、私が付いていこうとしないのだと、誰かに叱られたとしても。
キミを置き去りにしたまま、私は進めない。