100万回の祈りをキミに




次の日。薬が効いたのか風邪の症状はだいぶ良くなっていた。だけどまだ気持ちがモヤッとしてるのは体調不良だったせいではない。


昨日見た夢が頭から離れない。

夢、というよりあれは亜紀と交わした言葉の一場面。

亜紀の笑った顔だけを頭に残しておきたいのに、深く強く刻まれてる顔はやっぱり最後の……。


「波瑠~」

休み時間、凪子が3組に遊びにきた。

前まではイーグルが特集されている雑誌やインタビュー記事ばかり見ていたのに、最近の凪子はファッション雑誌を開くようになっていた。

あまりメイクにも興味がなくて、服装もどちらかといえば無頓着なほうだったのに日に日に凪子は女の子っぽくなっていく。


「波瑠。風邪は大丈夫そう?のど飴持ってきたからあげるね」

「……ありがとう」


凪子は凪子のままのはずなのに「この洋服どうかな?」とか「このリップどこで売ってるのかな?」とか、自分のためじゃなく誰かのために着飾ろうとしているその姿はやっぱり私の知っていた凪子とは少し違う。


「ねぇ波瑠。来週に岡辺くんのサッカーの試合があるんだけど良かったら一緒に行かない?」

「え……?」


きっとこうして全てのことが灰色に見えてしまうのは、私の心にあるフィルターのせいだって分かってる。だけど。


「近くに美味しいご飯屋もあるみたいだし、試合が終わったあとにそこでご飯を食べて、そのあと買い物でも……」

「ごめん」

私はひと言だけ返した。

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