100万回の祈りをキミに
「でもあの頃の先輩とお前が知っている先輩はちょっと違うかもな」
「どういうこと?」
「中学2年になったばかりの先輩ってさ。身長もそんなに高くなかったし女みたいな顔してたんだぜ?女子にはカッコいいより可愛いって言われてた」
そんなのぜんぜん想像つかない。だって中学3年生の亜紀は同級生の男子より頭ひとつ飛び抜けていたし、顔立ちもカッコよくて男らしかったのに。
「なんか中2の終わりから急激に身長が伸びはじめたらしいよ。毎朝骨がバキバキいう音で目が覚めるって話してた」
笑顔で話す夏井に、私もその亜紀の姿を想像して自然と口元がゆるむ。
成長期にそんなことがあったなんて夏井が教えてくれなかったら、ずっと知らないままだった。
そういえば亜紀って昔の写真は見せるの嫌がってたし、もしかして成長期前の自分を見られるのが恥ずかしかったのかな?
可愛い亜紀も見たかったのに……。
そのあとも夏井はコートにのら猫が迷いこんできて捕まえた亜紀がひっかかれた話やロシアンルーレットをすると必ず亜紀がカラシ入りのものを食べる話をしてくれた。
亜紀がいなくなって、こんな風にだれかと亜紀の話を楽しくしたのは初めてで。いつもなら詰まる胸も今は苦しくない。
きっと私は我慢していたんだ。
みんなの口から出る亜紀の話は悲しいものを連想させることばかりで。
過去の人にしたくないから。悲しい思い出で塗りつぶしたくないから、私は〝普通〟に亜紀のことを話せる人を求めていた。