100万回の祈りをキミに
「私ね、藍沢さんの言葉を聞いて気づいたんだ」
安藤さんが卵焼きを食べながら私を見た。
私が言った言葉?なにか言ったっけ?
思い出せない顔をすると安藤さんはクスリと笑って教えてくれた。
「ほら、みんなで恋の相談した時。大切なのはその人とどんな関係でいたいかって藍沢さんが言ったでしょ?」
「え、ああ、あれね……」
なんだかひとりで真面目なことを言ってしまったんだっけ?
亜紀のことを思い出して、とっさに言ったことだけど、あれはちょっとでしゃばりすぎたなぁって思ってる。
「私が夏井を気になるって言ったのは、あの明るさに惹かれてたっていうか羨ましかっただけなの」
すると安藤さんが持っていた箸を置いた。
「私ね、昔いじめられっこで。社交的なふりしてるけど本当は内気なんだ。だから夏井みたいに自然と人が寄ってくる人って見ちゃうんだよね」
「………」
「気になってたのは本当だけど、藍沢さんの話聞いて、恋とは違うなって気づいたの」
背筋が伸びて堂々と自分の過去を話す安藤さんは、なんだかすごく凛としていた。
「藍沢さんって実はすごい大恋愛したことあるでしょ?」
「え?」
なんの前触れもなかったから、普通に動揺してしまった。
「ふふ、なんとなくそうかなって。聞かないけどね。誰にでも話せないことってあるし」
そう言うと安藤さんは残りのお弁当を急いで食べて「次の授業面倒くさいね」なんて笑ってた。
きっと誰にでも触れられたくない過去のひとつやふたつあって。
きっと誰もが隠すのではなく、乗り越えたいと思っている。
本当にそれができる人はひと握りなのかもしれない。
私だって本当はそれができる人になりたい。
だけどそう思うことすらできないほど、あの日々は苦しいものだった。
キミが必要だった。
キミが大切だった。
キミがすべてだった。
悲しすぎた、14歳の冬。