100万回の祈りをキミに
私は大きな病気になったこともなければ入院したこともなくて。だから〝脳〟という文字に血の気がひく感じがした。
大丈夫。きっと大丈夫。
脳の病気だって色々あるし。MRIで何か見つかったのかもしれないけど、それは多分勘違いで。
亜紀が言っていたようにこれは念のため病室を移っただけだから、大丈夫に決まってる。
私は看護師に言われたとおり、東側の階に行って脳神経外科専門のフロアへと行った。そして部屋番号を確認しながら506号室を探す。
ほとんどの部屋が個室で、亜紀の部屋も勿論個室だった。
【506 塚本亜紀】と書かれた札。
ゴクリと息を飲んで扉をノックしようとした時、廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それに導かれるように私の足は自然と休憩室のほうへ。
『今日何時くらいに来れそう?』
休憩室の隅で誰かが電話で話をしていた。小声で聞き取りにくいけど、この階は内科や形成外科と違ってあまり人はいなくて。
だからその声はしっかり私の耳に届いていた。
『もし間に合うようなら、今日中にまた先生が説明してくれるらしいの。……うん、うん……』
盗み聞きなんて趣味が悪いと思いながらも、この場から立ち去れない。だって……。
『本人にはまだ伝えてないわ。私もまだ色々と混乱してて。亜紀が脳腫瘍だなんて……』
ドクンッ……。
亜紀のお母さんが涙声で電話をしているのはきっとお父さん。
私は心のどこかで、たいしたことはない。きっと亜紀はすぐ退院できて、今悩んでる頭痛も吐き気もいずれ良くなるって信じていた。
だから今も信じていない。
それなのにこの恐怖はなんなの?