100万回の祈りをキミに
そのあと私は必死で心を落ち着かせて506号室の扉をノックした。
「はい」
中から亜紀の声が聞こえて私はゆっくりと扉を開けた。
「あれ?波瑠来てくれたんだ。てっきり母さんか看護師さんかと思った」
亜紀はベッドの上にいて、備え付けられている机でフットサルの雑誌を開いていた。
亜紀の外見や表情はいつもどおりで、私も普通にしなきゃと心がけた。
「あれ?スマホ見てない?行くってメールしたんだけどな」
「あ、ごめん。昨日突然入院することになってスマホの充電器持ってきてなくてさ。だから充電途中で切れちゃったんだよ」
亜紀の格好はスウェットの部屋着。
まだ私物はなにもなくて、部屋にはベッドとテレビ。それと食事をする為の椅子とテーブルに小さな冷蔵庫が置いてあるだけだった。
「検査……どうだったの?」
なにも知らないふりをした。
亜紀のお母さんが伝えていない以上、私から言うわけにはいかないから。
「なんか脳に影みたいなのが写ったらしくて。暫くは様子見で入院するようにって言われたよ」
脳腫瘍ってあまり詳しく知らないけど、すぐに亜紀に伝えずにお母さんに伝えたってことは、病名を伏せておきたい理由があったからなの?
嫌なことが頭に浮かんでしまったけど、私はそれを隠すように笑った。