100万回の祈りをキミに
枯れない涙
・傷つかない世界
▽
夕暮れ時の学校。窓の外からオレンジ色の光が射しこんで、響くのはカチカチというシャーペンの音と弾む私の声。
「それで亜紀がね~」
教室に残っているのは夏井と私のふたりだけ。
今日は日直当番の日で私は日誌、夏井はまたペナルティで先生に頼まれた雑用をやっていた。
「あーホチキスの針また詰まった!ったく、なんでこんな面倒なこと俺がやんなきゃいけねーんだよ。そもそもこれ担任が顧問やってる卓球部の資料じゃん。あーくそ」
たしかに5枚まとめてホチキスで留める作業は夏井には苦痛かもね。でもその前に小テストもやらずに2時間ぶっ通しで寝続けた夏井が悪い。
「私の話聞いてた?」
「先輩とゲーセンに行ってぬいぐるみが取れなかった話だろ?」
「違う!取れなかったんじゃなくて次に並んでた男の子に譲ってあげたの。しかもあと少しで取れる位置にしたまま。亜紀って本当に優しいよね」
よく小さい子になつかれてたし、亜紀が抱っこしたら泣き止んだ子もいたっけ。
子どもってそういうの敏感だし、亜紀みたいな保育士の人がいたらみんな嬉しいだろうなぁ。
「あのさ」
すると夏井が作業の手を止めた。
「先輩の話するのやめない?」