100万回の祈りをキミに
「あー拭くものなくなっただろ。ったく風邪ひいても知らねーからな」
夏井は怒るどころかジャージを拾ってそれを雑巾のように絞っていた。夏井にイライラしたり当たったりしても仕方ないのに、心がゆらゆらと不安定。
「なんでヘラヘラしてんの。いつも話しかけるなって態度で示してるのになんで気づかないの?」
「………」
「迷惑なの。だからもう私と関わらないで」
大丈夫だって言い聞かせてもダメな時はある。
こうして誰かに当たり散らしたりしないと収まらない時もある。それがいつ、どこで、なんて分からないからなるべく人とは距離をあけたいって思ってるのに……。
「関わらないなんてムリだろ」
夏井は珍しく真剣な顔をして、ジャージを絞る手を止めた。
「だって藍沢とは同じ学校で同じクラスで……
同じバス通学なんだから」
最後のバス通学だけは取って付けたみたいな言い方。
思いつかないなら言わなくたっていいのに。
そんなことを思いながら屋根から滴り落ちる雨を黙って見つめていた。